繰り越した損失は、古い年分から順に消える。差し引く順番は法令が決めている
損失を3年繰り越せる。そこまでは誰でも言う。だが、繰越が2年分たまったとき、どちらから先に差し引かれるかを言える者は少ない。順番は選べない。決まっている。

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負けた年の損失を繰り越し、翌年に勝った。ここで多くの者が手を止める。前の年の損と、その前の年の損。どちらから使われるのか。自分で有利なほうを選べるのか。
結論を先に置く。選べない。最も古い年分から順に差し引かれる。そして雑損失の繰越控除と重なったときは、先物取引の損失のほうが先だ。どちらも国税庁のタックスアンサーが順序として明記している。この記事では、その順序と、期限の数え方と、順序を守っても消える損失があることを叩き込む。
まず、繰り越せる年数と限度を押さえよ
No.1523「先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除」の概要はこうだ。「先物取引に係る雑所得等」の金額の計算上生じた損失を翌年以後3年間にわたり繰り越し、その繰り越された年分の「先物取引に係る雑所得等」の金額を限度として差し引く。
ここに2つの縛りがある。期間は3年。そして限度はその年の先物取引に係る雑所得等の金額までだ。給与や事業の所得から引けるという話ではない。この区分の外へは出ていかない。
区分の内と外の線については申告分離20.315%と確定申告の基礎で扱った。本記事はその先、繰り越したあとの話である。
順序その一。最も古い年分から順次差し引く
タックスアンサーは、繰越控除を「次の順序により行います」として2つ挙げている。1つ目を引く。
先物取引の差金等決済に係る損失の金額が前年以前3年以内の2以上の年分に生じたものである場合には、これらの年のうち最も古い年分に生じた先物取引の差金等決済に係る損失の金額から順次差し引きます。国税庁タックスアンサー No.1523(令和8年4月1日現在法令等)
「最も古い年分から順次」。ここが核心だ。新しい損失を残して古い損失を先に使う、という意味になる。
逆を考えれば、なぜそうなっているかが分かる。新しいほうから使えば、古い損失は期限切れで消える。古いほうから使えば、消える前に使い切れる可能性が残る。順序は納税者に不利な設計ではない。だが順序が固定である以上、自分の裁量で動かす余地も無い。
順序その二。雑損失の繰越控除より先だ
2つ目を引く。
雑損失の繰越控除(前年以前3年内の各年において生じた雑損控除の対象となる損失額のうち、当該各年において控除されなかったものを本年分の総所得金額等から控除する制度をいいます。)を行う場合には、まず、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除を行った後、雑損失の繰越控除を行います。同上
雑損失とは、災害・盗難・横領による損失のうち、その年に引ききれなかった分を指す制度だ。名前が似ているが、先物取引の損失とは別物である。両方を持っている者は、先物取引の側が先に処理される。
この一文を軽く見るな。順番が違えば、どちらがいくら残るかが変わる。自分で選ぶ余地は、ここにも無い。
3年をどう数えるか、表で確かめよ
条文の言葉は「翌年以後3年間」であり「前年以前3年以内」だ。数え方を年で置いてみる。以下は制度の数え方を示すための仮の設定であり、特定の誰かの申告内容ではない。
| 損失が生じた年 | 差し引ける年 | 使い切れなければ |
|---|---|---|
| 2023年 | 2024年・2025年・2026年 | 2026年分で期限 |
| 2024年 | 2025年・2026年・2027年 | 2027年分で期限 |
| 2025年 | 2026年・2027年・2028年 | 2028年分で期限 |
2026年分の申告時に、2023年と2024年の損失が両方残っていたとする。順序は決まっている。2023年分から先に差し引く。そして2023年分は、この年で最後だ。
2023年の損失 30万円/2024年の損失 20万円
2026年の先物取引に係る雑所得等 40万円
差し引く順=2023年分30万円 → 残り10万円を2024年分から
2024年分の残り 10万円 は2027年分まで持ち越せる
同じ40万円でも、順序が逆なら結果は変わる。2024年分を先に20万円使い、2023年分を20万円使ったとすれば、2023年分の残り10万円はその年で期限を迎えて消える。順序が固定であることが、ここで効く。
順序を守っても、手続を欠けば全部消える
順序の話より先に、この道場が言っておくべきことがある。手続だ。タックスアンサーは3つ挙げている。
- 損失が生じた年分について、「所得税及び復興特別所得税の申告書付表(先物取引に係る繰越損失用)」および「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」を添付した確定申告書を提出すること
- その後において連続して上記の申告書付表を添付した確定申告書を提出すること
- 繰越控除を受けようとする年分について、上記の申告書付表および計算明細書を添付した確定申告書を提出すること
2番目を見よ。「連続して」と書いてある。取引がほとんど無かった年も、出さなければ繋がりが切れる。勝った年だけ申告し、何もしなかった年を飛ばす者は、順序を語る以前に権利を失う。
申告先は所轄税務署。根拠法令等の欄には措法41の14、41の15、措令26の23、26の26、措規19の8、19の9が並んでいる。
3つの番号を取り違えるな
この領域のタックスアンサーは3枚ある。番号で覚えておけ。
| 番号 | 表題 | 何が書いてあるか |
|---|---|---|
| No.1521 | 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係 | FXの差益は申告分離、差損の通算範囲 |
| No.1522 | 先物取引に係る雑所得等の課税の特例 | 所得税15パーセント(他に地方税5パーセント)、対象取引の範囲 |
| No.1523 | 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除 | 3年の繰越、差し引く順序、手続 |
順番を選べると思っているうちは、まだ甘い。選べるのは、記録を残すかどうかだけだ。
道場の心得:繰越は記録の勝負である
三つに凝縮して叩き込む。
- 古い年分から順に消える。2以上の年分の損失があるなら、最も古い年分から順次差し引かれる。有利不利で選ぶことはできない。
- 雑損失より先に処理される。両方を持つ者は、先物取引の繰越控除が先だ。
- 連続して申告書を出せ。取引の無かった年を飛ばせば繋がりが切れる。順序を語る資格は、書類を出し続けた者にしかない。
よくある問い
- 繰り越した損失は、どの年のものから差し引かれるのか。
最も古い年分からである。国税庁タックスアンサーNo.1523は、損失が前年以前3年以内の2以上の年分に生じている場合、「これらの年のうち最も古い年分に生じた先物取引の差金等決済に係る損失の金額から順次差し引きます」と定めている。差し引く順番を自分で選ぶことはできない。
- 雑損失の繰越控除も使う場合、どちらが先か。
先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除が先である。同じNo.1523が「まず、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除を行った後、雑損失の繰越控除を行います」と明記している。
- 取引が無かった年も確定申告書を出す必要があるのか。
繰越控除を受け続けるには必要である。No.1523の手続は、損失が生じた年分に申告書付表と計算明細書を添付した確定申告書を提出したうえで、「その後において連続して上記の申告書付表を添付した確定申告書を提出すること」を求めている。
- 繰り越せる期間はどれだけか。
翌年以後3年間である。差し引ける金額は、その繰り越された年分の「先物取引に係る雑所得等」の金額が限度となる。3年のうちに使い切れなかった分は、その先へは繰り越せない。
まずは手元の申告控えを出し、直近3年分の付表が揃っているかを確かめよ。欠けている年があるなら、順序の話はそこで終わる。今日の稽古は、書類の確認から始めよ。